紛争

難民問題と私たち

 欧州に逃れるシリア難民が連日ニュースになっています。民主化運動「アラブの春」をきっかけに2011年春、まさに東日本大震災と同じ時にシリアで起きた反政府デモが武力衝突に、そして本格的な内戦へと発展しました。実に国民の2人に1人が家や故郷を追われ、5人に1人が難民となる、今世紀最大の人道危機といわれる事態です。

 先日、この問題を特集したBSの番組で在京のドイツ大使とご一緒しました。難民受け入れでドイツに混乱が広がる前のことでしたが「シリア難民を歓迎し、おむつやミルクを届けるドイツ市民を誇りに思う」という趣旨のご発言がありました。

 この一言にぱっと浮かんだ光景があります。その数日前、私は鬼怒川が決壊した茨城県常総市(旧石下町)の支援現場におり、そこで目にした光景と重なったのです。決壊翌々日の9月12日のこと。避難所にはまだ物資が十分に行き渡ってはいませんでした。そこにおむすびやみそ汁を差し入れる近所の定食屋さん、オムツをもってかけつけた若いお母さん、そして自分のお小遣いで下着を買いに行く地元の高校生の姿があったのです。難民を迎え入れるドイツと同じ光景・行為です。異なるのは相手が外国の難民であるということ。

 日本には「困った時はお互いさま」という善意の伝統が古来脈々と息づいています。では私たちはその善意の対象を、どこまで広げられるでしょうか。シリア難民が日本に直接流入することはないでしょう。とはいえ今、私たちの「人道」や「想像力」が問われているように思います。

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