紛争

米英仏のシリア空爆と私たちの日常

 2016年1月19日の「善と悪の知恵比べ:クリス・ムーンさんとの会話から」に登場したY君こと山田一竹(いっちく)くん。他学部ながら、社会学部での私の授業「人間の安全保障」や「紛争と和解・共生」を最前列で聴講してくれていた学生さんです。その後、私の博士課程の母校でもある、駒場の「人間の安全保障」プログラム(HSP)の修士課程に進学、NPO団体「スタンド・ウィズ・シリア・ジャパン(SSJ)」を立ち上げ、自ら代表を務めています。

 山田くんらは戦火の中、街角でピアノを弾き続け、シリアの「戦場のピアニスト」として知られるエイハム・アハマド(Aeham Ahmad)さんを招き、4月14日(土)、15日(日)の両日、東京と広島でシンポジウムとピアノ演奏会を開きました。コンサートの模様は、新聞紙面でも大きく報じられました。アハマドさんの動画を見て、日本に呼べないかと考えてきたという山田くん、クラウド・ファンディングで支援を呼びかけ、1か月で約170万円を集め、実現にこぎつけたそうです。「シリアの人たちはSNSなどを通じて懸命に声を上げ続けている。私たちは知らないふりはできない」と語っています。(2018年4月15日付朝日新聞朝刊)。

 この講演会があったのは、折しも、米英仏3カ国によるシリア空爆が行われた翌日のことでした。
この空爆、国連憲章2条4項武力行使の一般的な禁止原則からは違法と思われます。他方で東グータ地区での行為は、化学兵器禁止条約違反であり、住民の保護を謳い無差別攻撃を禁止した国際人道法の明白で重大な違反です。

 今回の空爆はシリア問題解決の展望を欠き、米国の事情や思惑から出た無責任な行為との批判や非難もあります。しかし化学兵器を使われた市民・子どもたちの安全は誰が守るのでしょうか。

 「人間の安全保障」や「保護する責任」、ジェノサイド(集団殺害)の防止・阻止で繰り返されてきた、正解のない議論です。この問いに模範解答はなく、その回答は、国連の安全保障理事会や、関係国の「政治的決断」であり、そのカギを握るのは、各国の国民であり、私たち選挙民です。その意味で、シリアと私たちの日常はつながっています。

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