難民

論文集『スレブレニツァ・ジェノサイド:25年目の教訓と課題』を出版しました

以下本書の趣旨を説明した「はしがき」抜粋です。
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2020年は、新型コロナウイルス(COVID-19)の脅威に全世界がさらされた年として間違いなく記憶されるに違いない。しかし、同時に2020年は第二次世界大戦終結後75年目にあたり、また本書の主題であるスレブレニツァの虐殺から25周年にあたる年である。

ボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争末期の1995年7月、国際連合の安全地帯に指定され、国連防護軍(UNPROFOR)のオランダ部隊によって防御されていた、ボスニア東部の人口4万あまりのムスリム人の飛び地スレブレニツァは、ボスニアのセルビア軍の攻撃により陥落した。続く約10日間で、自力でスレブレニツァを脱出し、ムスリム政府軍支配地を目指した総勢約15,000人のムスリム男性の内、7,000~8,000人が行方不明となった。このスレブレニツァ事件は、「第二次世界大戦以来の欧州で最悪の虐殺」と称され、旧ユーゴスラヴィア国際刑事裁判所(ICTY)で唯一「ジェノサイド(集団殺害)」と認定された象徴的な事件である。

本書は、この事件をめぐって、2020年1月12-13日に立教大学にて開催したシンポジウム「25年目のスレブレニツァ - ジェノサイド後の社会の相克と余波、集合的記憶」の成果をもとに編んだ論文集である。このシンポジウムは、筆者を研究代表とするJSPS科研費17K02045(基盤研究C「ICTY判決とジェノサイド後の社会の相克-スレブレニツァを事例として」)の助成を受け、またその総括として開催したもので、延べ250人を超える方々が来場し、内外から専門家、研究者が」参加、事件について、多角的に検討を行った。

「スレブレニツァを再構築する」と題した第1セッション【地域研究の視点】では、事件の全体像を提示・再構築するとともに、事件の集合的記憶や第二次世界大戦の記憶、歴史教育、戦後のスレブレニツァの投票行動などから検討した。「国際法学とスレブレニツァ」と題した第2セッション【国際法学の視点】では、スレブレニツァ事件を犯罪捜査の視点から検討するとともに、ICTYから国際刑事裁判所(ICC)へと引き継がれる国際刑事法の基本原則、スレブレニツァ事件と関わりの深い法理や実行を検討した。「国連PKOとスレブレニツァ」と題した第3セッション【国際政治の視点】では、事件が国連PKOやその後の介入様式、文民の保護に及ぼした影響を議論した。

開催にあたっては、バルカン歴史研究の柴宜弘氏、ドイツ現代史・ユーゴスラヴィア史の清水明子氏、国際刑事法の佐藤宏美氏、国際責任法の岡田陽平氏、国際政治学・平和構築の篠田英朗氏、国際協力機構(JICA)で平和構築・民主化支援を担当する橋本敬市氏といった第一線で活躍する研究者、実務家とともに、元国連事務次長で元旧ユーゴ問題担当・国連事務総長特別代表の明石康氏、ICC元判事の尾崎久仁子氏、元ICTY検察局勤務、現ICCの書記局勤務の藤原広人氏らの特段のご協力を得た。このシンポジウムの成果である本書は、地域・歴史研究、移行期正義、国際政治学、国際法学(国際刑事法や国際人道法、国際責任法)、人類学といった豊潤ともいえる多分野の多角的・複合的な研究を可能な限り反映させ、スレブレニツァ事件を主題としつつ、領域横断的・重層的に事件発生時とその後を俯瞰する構成をとっている。また国際法や国際刑事法に馴染みの薄い読者のために、第2部では解説の形式を取り入れ、貴重な証言録でもある明石氏のご講演に関しては、第3部に講演録として収録させていただいた。
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是非ご高覧ください。

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