【難民を助ける会|理事長ブログにて執筆】
“make a difference”という言葉があります。国連機関の標語になったこともあり、国際協力の業界でよく使われる言葉です。私はこのささやかな言葉にいつも大きな希望を見出します。第5回のブログ「1個のリンゴ」で書いたとおり、私たちにできることは本当にささやかなことです。私たちがどのような犠牲を払って支援をしようと、私たちの活動そのものが、紛争そのものを終わらせたりすることはありません。
援助の限界を考える時、ひととおり無力感にさいなまれたり、深い後悔に襲われたりすることもしばしばですが、そんな時、最後に、決まって思い起こすのが、あるいは思い出そうとするのが、この言葉”make a difference”です。
“make a difference”は、”change the world(世界を変える)”というような大それた標語ではありません。世界を変えることに比べたら、「ちょっとした違いを作り出す」ことは、あまりにささやかな、小さな小さな目標です。しかし同時に、地に足のついた現実的な目標でもあると思います。「世界を変える」というとあまりに大きすぎて、言葉だけで終わりそうですが、”make a difference”は個別具体的です。特定の領域において、ある課題を認識し、改善や軽減のための目標と、それを実現するための計画をたて、その実現のために準備をし、実行に移す、そして行動を評価する、そんなプロセスがmake a difference であるように思います。そしてどんな大きな変革も最初は小さな1歩からはじまります。
「紛争を終わらせる」「世界を変える」ことはできなくても、小さな違いは作り出せると信じます。
そして世界を少しでも良い方向に変えていくのは、特別な選ばれた人、政治家を始めとする一握りの人の「change the world」という宣言や公約ではなく、私たち普通の人、一人ひとりによる日常の中のなにげない「make a difference」の積み重ねであるように思います。
こんなことを書いている時に、ある方からいただいたメールで、2年ほど前に亡くなった支援者の方を思い出しました。50歳のお誕生日を前に亡くなられた独身男性。20代でAARのボランティアとしてザンビアやカンボジアへ。その後は、ご自身の言葉を借りれば「長男としての責任を果たすため」お年を召されたお母様と暮らすために地元に戻られました。以来20年、後方から私たちの活動を支えてくださいました。この方をはじめ、亡くなられた支援者の方も大勢います。そんな方たちのお顔や表情を思い出すうちに思い至りました。その方たちがそれぞれの暮らしの中で、AARを長くご支援をくださったのは、私たちの、そんなささやかな活動に「希望」を見出してくださっていたからではないかと。