紛争

ICTYの教訓

 2017年末、国際刑事裁判所(ICTY)が24年の歴史に幕を下ろします。11月下旬に予定されるボスニアのセルビア人武装勢力の最高司令官ムラジッチ元将軍の一審判決、プルリッチら6人のボスニアのクロアチア人将校らを裁く上訴審判決が最後の事案です。

 ICTYは1990年代に起きた旧ユーゴ紛争の戦争犯罪人を裁き、地域に平和と安定をもたらす目的で、国連安保理により、1993年に時限付きで設立されました。これまで161人が起訴され、84人が最高刑である終身刑含め有罪判決を受けてきました。

 多くの場合、戦争犯罪、集団殺害(ジェノサイド)罪、人道に対する犯罪、侵略犯罪といった重大な国際犯罪は、国家やそれに類する組織が主体となって大規模に行われてきたため、犯罪者の処罰はまれでした。

 それゆえICTYは「不処罰の文化」に終止符を打つという歴史的意義をもったとされます。
加えて、これら重大犯罪の定義や構成要件を明確にした国際法的な意義は大きく、また、被害者に証言の機会を与え一定の正義をもたらす点、指導者の責任を追及し、特定の民族ではなく個人に罪を帰することで民族の融和を促す点、などの平和構築の利点も強調されてきました。

 しかし、実態はそれほど単純ではありません。判決が民族の分断や対立を深め、一部の限定的な事実が歴史的真実として語られる危険も存在します。ICTYがもたらした遺産の何たるかが問われるのはこれからです。

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