難民

「歩み寄る」とは -北方領土問題をめぐって

 古い話になりますが、冷戦真っ盛りの、レーガン(米)・ゴルバチョフ(ソ連)の時代、大学派遣の交換留学生として、アメリカ中西部の大学に学びました。政治学を専攻していた関係で、米国でも関連した科目を受講しましたが、その中の一つが「ソビエト外交史」。

 期末レポートのテーマは自由論題のはずでしたが、優しいけれど怖かった先生から問答無用の指示が下りました。「ユキエ、君の国にはソ連との領土問題があるだろう?君はクラスでたった一人の日本人なのだから、ぜひこのテーマで書くように」

 お恥ずかしいことにほとんど知識もなく、よもや留学先で自国の領土問題に向き合おうとは思ってもおらず、しばし絶句、頭を抱えました。図書館で乏しい文献探しに苦戦する中、大変参考になったのがソ連の百科事典の英訳版です。ソ連側からみた北方領土問題が克明に記されていました。

 そこで、ひどく印象的な単語に出合います。「liberation(解放)」。他方、急きょ日本の友人に送ってもらった日本語文献の対語は「占領」でした。「解放」と「占領」。この二つはコインの裏表のように対をなす言葉なのだ、同じ事象でも見る側によって見方や主張は180度異なるのだと、今では当たり前のことを初めて知った体験でした。

 日ソ共同宣言から60年、領土問題は先送りされたまま国交が回復し、関係も「正常化」しました。2016年12月、プーチン大統領がやってきます。「歩み寄る」ことの意味を新たに知る若い学生が出てくるのでしょうか?

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