2016年5月、私が理事長を務めるNGO「難民を助ける会」のトルコ南東部の事業地を訪ねました。シリア難民支援の最前線の事務所には、邦人職員のほかに、総務担当のトルコ人職員、シリア難民の支援にあたる自身も難民のシリア人職員がいます。
20数名の職員と夕食を共にしたある晩のこと、地元出身のトルコ人職員が、「事務所の雰囲気をどう思うか」と尋ねてきました。「チームワークの良さを見ると、トルコ人、シリア人、日本人の3民族の組み合わせは、この地の難民支援にベストだと思う」と答えたところ、別のトルコ人職員からすかさず訂正が入りました。「それにクルド人を加えた4民族ね」
確かにトルコ側にも、シリア難民の側にもクルド人がいます。クルド人はトルコ、イラク、シリア、イランやアゼルバイジャンなどにまたがるクルディスタンと呼ばれる山岳地帯に居住する世界最大の国なき民。総人口3000万ともいわれます。
日常生活の中で身近な人のアイデンティティーを尊重するのは、親しい人への敬意や思いやりの表現として、ごく普通の行為です。しかし、政治の論理は別。将来のクルド国家独立を見据えた動きとなれば、各々の事情で異を唱える国家・政権・勢力があまたあります。
2011年7月9日に独立した193番目の国連加盟国は南スーダンでしたが、ほどなくよもやの内戦が起きました。後に続くのはどの国でしょう。統一や分離、離脱の動きの中、新たな流血の事態だけは避けられるよう祈らずにはおれません。