春の嵐が過ぎ、いよいよ桜の季節です。締切の原稿を2本抱え、過去を振り返っている場合ではないのですが、それでも、新年度を迎えるにあたり、自身の備忘録として、新たな年度の個人的方針を立てるためにも、公私ともに波乱の2023年度の仕事を振り返っておきたいと思います。
1. 公開講演会の主催
世界の難民問題が一層深刻化する中で、個人としては、公開講演会の準備にも追われた年でした。
関係職員が総出でとりかかる、難民を助ける会主催の行事と異なり、大学で自分が担当教員として開催する行事、あるいは個人の科研費で行う行事は、完全な「一人NGO」状態。当日、研究科の同僚の先生方はじめ、様々な方にお手伝いいただきましたが、また事務室の方々のサポートもいただきましたが、すべて一人で実施が基本です。企画、登壇候補者への打診、会場予約、学内稟議の書類づくりと謝金に関する財務部門とのやり取り、告知・広報、申込者の受付、(オンライン併用のハイブリッド開催が主流になってからは)オンライン情報の取得やお申込みいただいた方への連絡、同時通訳会社との折衝や、登壇者の食事の手配や当日のアルバイトの声がけなどなど。自分の報告の準備に割く時間はなく・・・。また母の2度の手術とその後の介護・病院の付き添い、自身の親知らずの悪化と抜歯など綱渡りの連続でしたが、ご協力くださった皆様のおかげで、何とか以下の講演会を実施することができました。音響や通訳ブースの設置でご尽力いただいたメディアセンターの皆様にも感謝します。
1) 2023年月28日(火)14:00~17:00 公開講演会「スレブレニツァと犠牲者意識ナショナリズム」— 林 志弦先生をお招きして 於:立教大学池袋キャンパス8号館8101教室
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8101教室は同時通訳ブースが完備された、500人収容の大教室です。
2) 2023年6月20日(火) 18:30~20:00 「世界難民の日」に考える~世界の現状と私達にできること:立教大学池袋キャンパス 11号館 AB01教室+オンライン(Zoom)
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3) 2023年11月10日(金)18:30~20:30 ジェニファー・ワイゼンフェルド先生公開講演会「視覚化された破壊と再生の記録からみる関東大震災—追悼・展示と表象・差別・ダークツーリズム」池袋キャンパス 8号館1階 8101教室
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4) 2023年11月17日(金)18:30~20:30)ジェニファー・ワイゼンフェルド先生公開講演会「ガスマスク国家:戦時中の日本の防空、航空、空想空撮」ハイブリッド型開催(対面・オンライン) 池袋キャンパス 太刀川記念館3階 カンファレンス・ルーム
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1) は、(2022年度の開催ですが)長が代表の科研費(C)(20K12332)および科研費(B)「旧ユーゴスラヴィア地域における民族を超えた文化の学際的研究:紛争後30年を経て」(21H03710研究代表者:神田外語大学鈴木健太)の助成を受け、また当日の会場運営は難民を助ける会(AAR Japan)の協力を得て行いました。この講演会の企画を機に、面識もないまま初めてご連絡を取らせていただいた、林 志弦(Lim, Jie-Hyun)先生(韓国・西江大学)とヤスナ・ドラゴヴィチ=ソーソ(Jasna Dragović-Soso)先生(英・ロンドン大学)とは、その後も対面・オンラインで公私で親しくさせていただく関係になりました。そして旧知のクロス京子先生、JICAの橋本敬市さんにも素晴らしいご発表をいただきました。
2) は、文学部文芸・思想専修の渡名喜庸哲先生のご協力で実現した会です。学内の紀要に掲載された渡名喜先生のご論考「アーレント・難民・収容」を偶然目にしたことをきっかけに、お声がけしたことからこの企画が生まれました。立教大学在学中のウクライナ人留学生やウクライナ避難民支援に関わった日本人学生とともに、私が所属する21世紀社会デザイン研究科(2024年4月1日より社会デザイン研究科に改称)の英語によるMSDAコースで学んでいた、ブルンジ出身の元難民で、国際協力機構による国費留学生に登壇頂きました。難民を助ける会(AAR Japan)の活動地・ケニアやウガンダ、南スーダンなどの難民キャンプで、中等教育のその先の未来が全く見通せない難民の若者を目の当たりにしてきた者にとって、彼の存在は一つの希望でした。
3)と4)は、立教大学の招へい研究員制度を利用して、米国からお招きしたジェニファー・ワイゼンフェルド(Gennifer Weisenfeld)先生(米・デューク大学)による講演会です。ご著書『関東大震災の想像力 – 災害と復興の視覚文化論』を目にして以来、関東大震災から100年の2023年に何とかお招きできないか、と企画を温めていました。2つの公開講演会と非公開で行った研究会「大規模災害における多数遺体の埋火葬再考〜仮埋葬の必要性と
社会的受容性〜」の報告書はこちらです>>>。
ワイゼンフェルド先生とのご縁をつないでくれたのは、2020年の秋、闘病の後に他界した義妹・志邨匠子(秋田公立美術大学)です。日本近代美術史を専門とする彼女とジェニファーさんとは学生時代から20年を超えるお付き合い、親友でした。会場のどこかできっと見ていてくれたのではないかと思っています。彼女は最後まで真摯な研究者・探究者でした(科研ホームページはこちら>>>)。
2. 講演やシンポジウムへの登壇
1) 4月1日:早稲田大学政治経済学部入学式での祝辞(オンラインで、かつ事前収録でしたが、母校の入学式に卒業生としてご依頼頂きました。)
2) 6月23日(金)14:30-16:00:長野県中信地区高等学校進路指導主事研究協議会 於長野県松本市あがたの森文化会館
演題:「『そこにいたのは私だったかも』世界の人道危機に私たちができること」
会場となった、あがたの森文化会館は、重要文化財「旧松本高等学校(現・信州大学)」校舎を保存しながら、市民の皆さんの教育文化活動に活用されている施設とのこと。同じく重要文化財指定を受けている、母校土浦一校本館を連想させる本当に素敵な建物でした。そこで、先生方、そして高校生と世界の人道危機についてお話する貴重な機会でした。
3) 8月6日(日)第22回日本トラウマティック・ストレス学会国際交流委員会企画シンポジウム(於武蔵野大学有明キャンパス) 演題「ウクライナ侵攻における避難者の人道的・精神保健的課題:日本における避難民支援の現状と課題」
4) 9月28日 九州大学大学院 比較社会文化研究院 施研究室主催 (於九州大学伊都キャンパス)演題「DO NO HARM原則と「翻訳」から考える国際社会と平和構築 ~ボスニア・ヘルツェゴヴィナを主な事例に」
5) 10月27日(金)17:45‐18:30立教大学チャプレン企画礼拝(於立教学院諸聖徒礼拝堂(池袋チャペル))演題「「今、世界では何が起きているか—ラファエル・レムキンの人生から学ぶ—」
チャプレンからお声がけいただき、演題を決めたのは9月中旬。ガザの事態が発生する前でした。この秋学期は、隔年開講の大学院科目「ホロコースト再考」も同時並行で進み、ガザの事態を前に、この講演会も、毎回の授業も、生き方、あり方を問われているような、緊張の連続でした。
6) 2024年1月16日(火)14:30-16:00失われた30年検証委員会(オンライン) タイトル:「日本の価値外交と国際協力からみる「失われた30年」:人間の安全保障概念の再検討と日本のNGOをめぐる諸課題」
7) 2024年2月2日(金)9:45‐11:45防衛省防衛研究所第71期一般課程「人道支援」講師:タイトル「I人道支援の現状と課題」「II日本のPKOはスレブレニツァ事件から何を学ぶか~事件の再構築を通じて」
もう10年以上、継続している講義です。数年前まで、防研以外の講座も担当させていただいていましたが、スケジュールが過密になり、ここ数年は、年に1度のこちらの講義のみとさせていただいています。今年も、活発な、そして真摯なご質問をいただき、大変貴重な時間となりました。
8) 2024年2月13日(火)13:30-14:45緊急人道支援学会第1回設立記念大会・シンポジウム(於東京大学駒場キャンパス): シンポジウム「頻発する人道危機:人道支援の共創とイノベーション」に登壇
この間、2月22日~29日まで、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナに出張し、かつ雑誌の原稿の締め切り(『世界』4月号と論集の校正となんとも目まぐるしい日々でした)
9) 2024年3月3日(日)第3回イスラーム信頼学 国際会議 “Exploring the Tacit Knowledge of Trust Building and Connectivity amidst Predicaments” (Mar. 1-3) (於東京大学駒場キャンパス The 3rd Islamic Trust Studies International Conference “Exploring the Tacit Knowledge of Trust Building and Connectivity amidst Predicaments”, Session 3: “Returning to normal? (Mis-)trust building in post-conflict societies”
発表タイトル:“Bosnian Diaspora’ s political activism and international lobby activities and its influence over homeland peacebuilding”
10) 2024年3月9日(土)第102回自由学園卒業式(於自由学園記念講堂) 来賓祝辞「よく生きるとは」
自由学園第102回卒業式に来賓祝辞でお招き頂きました。祝辞では昔、藤原保信先生(政治思想史)から、修士課程修了式に贈られ、今もよく思い出す言葉「皆さん、今一度、アリストテレスのいう、よく生きるとはどういうことか、考えてみてください」をご紹介しました。藤原先生からの永遠の「宿題」です。
このほかに執筆原稿の一覧を、と思いましたが、それはまた次回に。