(2) 国連総会決議46/182(A/RES/46/182)及び58/114(A/RES/58/114)

 国連機関、国際機関をはじめとする国際社会にとっても、人道支援を提供する際、赤十字の基本原則は重要な規範概念となっている。1991年の湾岸戦争時、国連の正統性が最も担保される総会の場で、国際社会の人道原則が決議された。

 湾岸戦争時のクルド難民に対する人道支援の混乱を受けて1991 年12 月19日、国連総会は、「国連の緊急人道援助の調整の強化」に関する国連総会決議46/182を採択した。(注)

 この決議の附属文書冒頭の「1、指導原則(Guiding Principles)」において、まず、人道支援(Humanitarian Assistance)の決定的な重要性が指摘されたあと、「人道支援は人道、中立、公平という原則にのっとって提供されなければならない」と人道の3原則が掲げられた。

 また、同時に被災国政府の主権の尊重(国家主権不可侵の原則)、要請主義の原則(注) を確認し、さらに救援活動の調整、管理の第一義的な責務は、当該国家にあるとした。

 46/182決議は、現在も国連の人道支援の調整の中心となっている機関や機能の設立の根拠となった重要文書であり、緊急援助調整官(Emergency Relief Coordinator:ERC)や人道問題局(UN Department of Humanitarian Affairs UNDHA、現UNOCHA)、機関間常設委員会(IASC Inter-Agency Standing Committee)を設立、また国連統一人道アピール(CAP Consolidated Appeal Process)を導入する等その後の国連による人道支援の原点となった。

 他方で、この決議で興味深いことは、赤十字の重要原則の内、人道、中立、公平の3原則のみが明記され、独立原則の言及がないことである。国際社会の人道支援に、独立原則が加えられるにはさらに12年の時を要する。2003年春に始まったイラク戦争が人道支援の政治化、軍事化、商業化という深刻な問題を提起した年である。

 2003年9月に始まった第58回国連総会会期において、2004年2月5日、46/182と同じタイトルの「国連の緊急人道援助の調整の強化」に関する国連総会決議58/114(注) が採択された。この決議の前文の第3パラグラフにおいて、「人道援助の提供に際し、中立、人道、公平という諸原則を今一度確認し(Reaffirming the principles of neutrality, humanity and impartiality for the provision of humanitarian assistance,)」と記され、直後の第4パラグラフにおいて、以下のとおり初めて独立原則が明示された。

「人道的な活動が実施される局面において、政治的、経済的、軍事的あるいは他のいかなる目的からも人道的な目的の自主性を保つことを意味する独立が、これも、また人道援助の提供のための指導原則として重要であることを認め(Recognizing that independence, meaning the autonomy of humanitarian objectives from the political, economic, military or other objectives that any actor may hold with regard to areas where humanitarian action is being implemented, is also an important guiding principle for the provision of humanitarian assistance,) 」という形である。(注)

 冒頭で述べたとおり、また、赤十字とNGOのための行動規範においても、「独立」とは当該国政府、あるいは当局からの赤十字及び人道支援組織の「独立」を指している。しかし、そもそもその主権国家を構成単位とする国際連合という組織において、またそのすべての加盟国が参加する総会という場において決議された独立原則は、本来の組織としての独立ではありえず、目的の自主性(autonomy)という概念に転換されることになった。

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