難民・国内避難民支援を行う世界各地の人道支援NGOが、その活動にあたって、もっとも重要な原則として採用しているのが、「災害救援における国際赤十字赤新月社運動ならびにNGOのための行動規範」である。
1994年4月から7月にかけて、ルワンダでは、強硬派のフツ勢力によるジェノサイド(集団殺害)が発生した。対象となったのは、ツチのみならず穏健派のフツの人々。政府軍や民兵のみならず、職業・性別を問わず、あらゆる層がこの凶行に加担し、犠牲者の数はおよそ100日間で80万人の上ったとされる。
ジェノサイドの混乱の中、大きな犠牲を払いつつも、ツチのルワンダ愛国戦線(RPF)が反撃、一気に兵を進め7月には首都キガリを制圧、1994年7月19日にはビジムング(Augustin Bizimungu)を大統領に、カガメ(Paul Kagame)を副大統領とするRPFの新政権が成立した。
この時点で虐殺は収束するが、他方で、虐殺開始後の早い時期から、ルワンダの旧政府勢力やRPFの報復を恐れたフツを中心とする人々が周辺国へ難民として流出した。
4月に約30万人の難民がタンザニアのンガラ地方に、RPFが政権を樹立する7月初めには、100万人がザイール(現コンゴ民主共和国)ゴマ地方に、30万人が同ブカブ地方に避難した。
ジェノサイドの首謀者らは、難民向けに緊急支援が行われることを理解しており、ジェノサイドの報復があるとの流言を流し、又は強引に一般市民を出国させ難民化させたとされる。フツの旧政権幹部らは、難民キャンプを支配し、援助物資を管理するとともに、こうした難民キャンプを拠点にルワンダ本国への攻撃も行った。
短期間に流出した難民としては類をみない規模であり、キャンプには大量の武器が出回り、地域の状況が著しく悪化するとともに、これら難民も飢餓やコレラなど伝染病で大量の犠牲者が発生する一大危機となった。
メディアの注目を集めたこの前代未聞の規模の惨事に、主に西側先進諸国から大小、新旧、国籍を問わず、120を超えるさまざまなNGOが駆けつけ難民キャンプの運営、給水、医療、食料、保健衛生といったあらゆる分野で支援活動が行われた。
現場は、難民キャンプや援助物資が武装勢力により利用されるという事態もあいまって大きな混乱に陥った。
この時の反省から、ICRC、そして国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)が6つの国際NGO
1: 人道的な規範(the humanitarian imperative)が何ものにも優先する。
2: 援助は、受益者の人種、信条、国籍の別なく、またいかなる種類の差別なく行われ、援助の優先順位はその必要性にのみ基づいて決定される。
3: 援助は、特定の政治的、あるいは宗教的見地を助長するために利用されてはならない。
4: 我々は、政府の外交政策の道具として行動することなきよう努力すべきである。
5: 我々は、文化と慣習に敬意を払うべきである。
6: 我々は、災害に対する地元の対応能力を高める努力をすべきである。
7: 救援活動の運営に援助の受益者が参画できる方策を探るべきである。
8: 救援活動は、基本的ニーズを満たすのみならず、将来の災害に対する脆弱性を軽減させることをも目指すべきである。
9: 我々は、援助の対象者、支援者双方に対し、説明責任を有する。
10: 我々の行う情報、広報・宣伝活動において、我々は災害の被害者が哀れみの対象ではなく、尊厳ある人間であることを認識すべきである。
ここで確認されたのが、赤十字の7原則の内、人道(第1条)、公平(第2条)、中立・不偏不党(第3条)、独立(第4条)の4原則である。
日本のNGOと外務省、経済界による人道支援の仕組みにジャパン・プラットフォーム(JPF)があるが、NGOがJPFに加盟し、助成金を得るためには、この「行動規範」に署名し、これを遵守していることが条件となる。
助成資格を受けるための提出書類には、団体の定款や法人登記簿謄本、役員名簿や直近2年分の事業・予算計画書、及び活動報告書、決算報告書(法人財務諸表)、監事による監事報告書や公認会計士(監査法人)による会計監査報告書の写しとともに、この行動規範の署名の写しが必須である。
最新の署名団体一覧表は、IFRCのホームページに公開されているが、2017年1月現在、この行動規範には、ジャパン・プラットフォーム加盟団体を含め、約80の国や地域の621団体が署名している。
なお余談だが、こちらの名簿の筆頭に、筆者が理事長をつとめる日本の、難民を助ける会が掲載されている。団体の英語名、Association for Aid and Relief(AAR) Japan がアルファベット順の名簿の1番目に記載されているためである。ささやかな偶然であるが、文字通りこの行動規範を信奉する者として、この名簿を目にする度にとても誇らしい思いになる。
「(2) 国連総会決議46/182(A/RES/46/182)及び58/114(A/RES/58/114)」へ進む >>